グループ購入サービスのDropで、フランスのオーディオメーカーFocalとDropの共同開発ヘッドホン「Focal Elex」を買いました。2018年7月購入で8月に届いてから使っているので、9ヶ月ほど経ってますが。
購入金額は送料含め684.99 USDで、当時のドル円換算で送料込み75,828円。これに税関通過時の消費税を加えて81,894円。今見たら700 USDだったのでちょっとだけ値上がりしたっぽい。
残念ながらElexは日本への発送が対象外なので転送業者に50ドル(5,550円)支払い、総額は87,444円。改めて考えると高い買い物だな……
いつの間にかMassdropがDropに改名していて驚き。
Focal Elexとは
Focal Elexは、Focalの「Elear」というヘッドホンをベースに、独自のカスタマイズが施された開放型ヘッドホン。
Focalヘッドホンの高級ラインには、開放型のElear以外に、その上位モデル「Clear」、最上位モデル「Utopia」もある(密閉型の「Elegia」と「Stella」もある)。
Elexは、Elearをベースに上位モデルのClearのような鳴りを狙ったというヘッドホンで、Drop曰く“Super (Sennheiserの)HD 650”を目指して開発したとか。
Elearの国内実売価格は11万円前後、Clearは16万円前後なので、それらに比べればElexは安いんじゃないでしょうか(十分高いですけど)。
ちなみにClearには制作環境向けのモデル「Clear Professional」もありますが、Clearとの違いは本体とイヤパッドの色が違うだけでドライバーなんかも同じらしく、スペックも構造も変わってないので実質カラバリモデルらしい。赤色のパッドはオシャレなので単体で売って欲しい。
特徴
特徴としては、ヘッドホンの中でも珍しい「完全開放型」というのが挙げられる。イヤーカップはメッシュの組み合わせで、メッシュ越しにドライバーが見えるほどスカスカ。このスカスカのお陰で、ベントホールが原因で発生する歪みを完全に排除できるほか、ドライバーに圧力がかからないのでダイナミクスに余裕が生まれて爆音でも鳴らせる。
また変わっている点としては、ドライバーのダイヤフラムにアルミニウムとマグネシウムの合金が使われているほか、形状が一般的なドーム型ではなく、アルファベットの「M」型というのもある。
通常、ヘッドホンのドライバのダイヤフラムにポリエステルやセルロースのような樹脂とか繊維素材を固めたものを使うのが主流で、金属製というのは珍しい。
樹脂は薄く軽くできるので応答性に優れるものの、強度に欠けるので超高音域の再生能力に限界があるとかで、金属の場合は強度が高いので再生時のダイヤフラムの歪みが小さく、音の歪みも小さくなるらしい。逆に金属製のデメリットもあるらしいけど面倒なので割愛。
最上位モデルのUtopiaでは、ダイヤフラムに希少金属のベリリウムが使われている。ベリリウムはアルミマグネシウム合金よりもさらに剛性が高くて内部損失も大きいため、より歪みが小さいんだそう。ただしベリリウムは人体への毒性が高く加工が大変(粉末を吸ったら死ぬ)な上、希少金属のため価格が高いので、Utopiaは値段が40万円超とブッ飛んでます。
ElexはFocalのヘッドホンとしては安いものの、他のFocalヘッドホンと同じくフランスでハンドメイドされていて、品質管理も厳密にやってるので、個体ごとの公差は±0.5 dB未満だそう。
ドライバーの直径は40mmで、下の画像の通りAKGやSennheiserの同サイズドライバーのヘッドホンはダイヤフラムが樹脂製で、Elexは金属製。
説明によれば、ドライバーのエクスカーション(ドライバーが最大入力時にどれだけ動くのか=振れ幅)が一般的なダイナミックドライバーの10倍大きいので、「5 Hzの超低音域までロールオフせずに伸びる」らしい。
Elearとの違いは、マイクロファイバーイヤパッドが穴開き仕様、本体色がオールつや消しブラック、ケーブルを布巻きにして6.35mm標準ステレオフォーンプラグと4ピンXLRのバランスケーブルの2本が付属する、など。
音のチューニングについては、ニュートラル以上(中高音域)を+3 dB、低音域を-5~10 dBして、音のバランスを調整。Elearはイヤパッドが穴開き仕様ではなく、音の傾向も若干低音強めという話なので、穴を開けて低音を逃すことでチューニングしているらしい。穴開きイヤパッドなのはClearとUtopiaでも同じで、Elexのパッドと同じものかもしれない(色は違うけど)。
仕様
下記は製品の仕様。
仕様 | Focal Elex |
---|---|
ドライバー | 40 mmアルミニウムマグネシウム合金製 「M」型ダイナミックドライバー(開放型) |
インピーダンス | 80 Ω |
感度 | 104 dB SPL / 1 mW at 1 kHz |
全高調波歪(THD) | < 0.3% at 1 kHz / 100 dB SPL |
周波数応答(Frequency Response) | 5 Hz – 23 kHz |
重量 | 450g |
付属品 | ステレオフォーン (6.35mm) アンバランス布巻きケーブル1.8 m 4ピンXLR (バランス)布巻きケーブル1.8 m |
インピーダンスは80 Ωで能率も悪くないので、高出力なヘッドホンアンプでなくても音量は取れる。スマホ直挿でもデカすぎるレベルまで音量が上げられます。
ハウジングもアルミ製なので重量は450gとかなりヘビー。AKGとDropコラボの「K7XX」が235 gなのと比較すると如何に重いか分かる。
測定結果
Head-Fiにダミーヘッドマイクとお高い測定器(Audio Precision APx555)を使った測定結果が載っているのでそちらから引用。
下記のグラフはElearとUtopiaとの比較。上が周波数応答、下が全高調波歪 (THD)で、それぞれ実線がElex、破線がElear、点線がUtopia。
20~20 kHzの周波数応答は(5.75 kHzという中途半端な周波数で揃えていて分かり辛いですが)、Elearと比べると中低音が抑えめで、高音域は大きめ。特にElexは9 kHzと11 kHzくらいに大きなピークがあり、この辺の音域は所謂“音の抜け”感に影響するので、Elexではそのあたりを改善するためにElearから盛られているっぽい。
Utopiaと比べると、高音域の傾向は似ていて、逆に中低音は控えめ。Utopiaだと2 kHz付近の差が大きいので、(Utopiaは聴いたことはないけど)Elexの方がボーカルが前に出てくると思われます。
ElexのTHDは70~300 HzでElearより悪いものの、他は同程度か優秀。Utopiaは全体的にElexより優秀か同じくらい。
Clearとの比較では、周波数応答の結果はほとんど同じで、50 Hzあたりからのロールオフが違うくらい。ローエンドの差が結構あるように見えますが、上記と違って10~20 kHzの測定結果なので、30 Hzまでほぼ同じであることを考えると、実際に音楽を聴く分には差は小さい?THDは大体一緒。
Sennheiser HD650との比較では、HD650が100 Hz以下からロールオフしているのに対してElexはほぼそのまま20 Hzまで伸びている。高音域は、HD650の9.2 kHzとか15 kHzあたりの強烈な谷との差が目立つ印象。
HD650は耳に刺さって聴こえる歯擦音だとかの帯域を控えめになるよう調整されているらしく、聴き疲れしない音作りと評判なので、測定結果で見るとElexの音の傾向はHD650の上位機を目指したという謳い文句の割にHD650とはかなり異なる。
HD650は低音が太いという評価が多いですが、周波数応答を見る限り低音ヘッドホンというよりは中低音寄りのカマボコっぽい。高音域が控えめなのと倍音が鳴ってるから低音が強く感じるんだろうか?
自分はHD600聴いたことないのでどのくらい似ているのか分かりませんが、Head-Fi上のレビューによれば、HD650というよりはHD600の上位互換とのこと。
使用感
ここからは実際の使用感について。再生環境はWindows PC > MOTUのオーディオインターフェイス「UltraLite mk4」 > ヘッドホンアンプ「Massdrop x THX AAA 789」 > Elex。
高音域
評価:
高音はスッと上まで抜けていく感じ。手持ちの樹脂ダイヤフラムのダイナミックドライバーヘッドホンと聴き比べると高域の再生で「無理してる」感がないので、金属製ドライバーの謳い文句に納得。
どちらかと言えば明るめではあるもののキラキラした音ではなく、意外と地味と言えば地味寄り?よほど音量を上げない限りハイハットやボーカルの歯擦音が突き刺さってこないので、個人的には良い塩梅。
ただし、音量を上げていくと5-6 kHzあたりの鳴りがうるさく感じてくる。このヘッドホンの場合、後述するように遮音性が皆無と言って良いので、爆音にすると反対のドライバーの音が聴こえてしまって余計にうるさく感じている可能性アリ。
中音域
評価:
中音域は気持ち控えめ。逆にこれ以上に大きいとボーカル帯がうるさすぎるのでちょうど良いかな……
気になったのはスネアの鳴りで、恐らく分離感を強めるために設けられたであろう周波数の“谷”部分がスネアの帯域に被っているらしく、曲によってはスネアの音の芯が抜けているような鳴りに感じる時がある。
低音域
評価:
低音に関しては、他のFocalヘッドホンと同じく量感は多くないものの、しっかり鳴っている。ローエンドについても30 Hzのサブベースが分かる程度には伸びている。
ボワついた音ではなくかなり締まった低音で、立ち上がりが鋭くアタックが強いので他の帯域に埋もれる感じはしない。
モコモコした音ではなく、アタックがガツッと来る鳴り方なので好みが分かれるかも。Genelecのモニタースピーカーの鳴り方が近い?かもしれない。
調性(トーンバランス)
評価:
聴覚上のフラットから10 kHz付近の高音を少し持ち上げて音の抜けを良く聴こえさせつつ、低音は必要十分に鳴っているという感じ。低音が中高音域へ被ってきて篭って聴こえることはなく、上も下も同時に鳴る。カマボコかドンシャリで言えば、僅かにドンシャリ寄り?
人の聴覚は音量によって感度が変わるため、同じバランスのままというわけではないですが、少音量でも比較的全体のバランスが崩れづらいのも良い点かと。ながら聴きで絞って聴いてもいい具合。
ハッキリした音の割にあまり聴き疲れしないので、音量を上げやすい。ただし前述したようにある程度の音量になると共鳴がうるさくなってくる。
どちらにせよあまり大きい音で長時間聴いていると難聴になるので気をつけましょう。
分解能
評価:
分解能は、ドライバーの応答性が優秀なお陰かアタックが分かりやすく、団子ではなく楽器ごとにしっかり別に聴こえるので解像度は高め。モニター用のヘッドホンに近い。
リバーブの深さ/音が消える瞬間が知覚できるので、この辺もモニターヘッドホンっぽいか。全体的に濃いキャラ付けは無い。とはいえガチガチのモニターヘッドホンのように平坦でもない。
録音とかマスタリングの出来もわかりやすく、オーケストラのようにダイナミクスの緩急が激しい曲もスッと追従してくる一方で、コンプで潰しすぎている曲を聴くといかにも詰まった感じの鳴り方をするので、「なんでも気持ちよく鳴らしてくれる」感はない。
音楽制作をしている人なら、ミックスダウンに使えるかもしれない。
音場(サウンドステージ)
評価:
音場は開放型だけあって密閉型のソレよりも広い。イヤーパッドが2 cmほどの厚みがある形状記憶フォームで、ドライバーも耳孔に対して斜め前に配置されているため、ドライバー自体が耳から遠いこともあり圧迫感もない。
とはいえ、Sennheiser HD800のような部屋の端から鳴ってるように感じるほどの広大さも感じないので、開放型としては普通の広さ?かも。
関係ないがドライバーを斜めに配置すると、装着位置によって音が変わってしまう問題を軽減できる(完全に解消はできないが)ので、オーバーイヤーのヘッドホンはみんな採用してほしい。
定位
評価:
音の定位は優秀。前述のようにドライバーが耳に対して斜め前にあるので、「耳の真横で鳴っている」感が薄く定位がわかりやすい。
快適性 / 装着感
評価:
Elexは450gもあるので、ヘッドホンの中でもかなり重い。ただし頭頂部とイヤーカップとで上手いこと重さを分散するように出来ているので、数字ほどは重く感じない。側圧が強すぎるということもなく、装着感はかなり良い方。5時間ほど付けっぱなしでゲームしていた時も「ヘッドホンが重いせいで疲れた」感は無かった。
が、軽いに越したことはない。開放型なんだし、もう少し軽くてもよかったかな……
ちなみに、最初は妙に収まりが悪いと思ってたら、ヘッドバンドを頭頂部ではなく少しおでこ寄りに装着するとしっくりきました。
遮音性 / 音漏れ
評価:
/音漏れについては、完全開放型なのでめちゃめちゃ漏れる。盛大に漏れる。当然ながら遮音性も皆無。明らかに静かな部屋で一人で使う仕様なので、外で使うのは確実に他人の迷惑になるしやめましょう。
あとインピーダンスが低いので、アンプを選ばずに使えるのは良いんですが、逆に感度が良すぎてハイパワーなアンプに繋ぐと音量調整がシビアで、AAA 789にバランス接続すると、夜中とか音量を絞ろうとしたときギャングエラー寸前まで下げないと音がデカすぎて眠気が飛んでいく。
開放型なので持ち歩いて移動中に使うことも無いし、ハイパワーなヘッドホンアンプ持ってるオーディオマニアにターゲットを絞ってインピーダンスをもっと高くしても良かったと思う。
総評
良い点
難点(懸念点)
総評としては、音についてはほとんど不満がないので買って後悔はない。後はもうちょい安くて軽ければ最高なんですが。とりあえずElexでヘッドホンスパイラルは一旦終わり、と思ったけど今度は平面駆動のヘッドホンが気になってくる……
項目 | 評価 |
---|---|
高音域 | |
中音域 | |
低音域 | |
音調 | |
分解能の高さ | |
音場の広さ | |
定位の良さ | |
遮音性の高さ | |
音漏れの少なさ | |
快適さ | |
満足度 |
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